第六章 約束~第六章 約束~ギランの加勢と多くの血盟により戦況は大きく変わりつつある。 血盟問わずに助け合い、協力をしている。もはや連盟と言った方がいいだろう。 ケントとハイネの間の森。 そこの一箇所には、人口の小さな池と天使の像が立つロウフル寺院が有る。人々はそこを拠点に陣を構えた。 ロウフル寺院はの神アイン・ハザードを崇めるため、の神グラン・カインを崇めるラスタバドのものにとっては近づき難い場所なのである。 ロウフル寺院周辺。 ディル・ハーゲイスはポケットから懐中時計を取り出した。 所々くたびれた感じの懐中時計の針は、ギリシャ数字の上を回る仕組みになっている。 機械の方は余り得意でないディルは仕組みはよく分からないが、時刻さえ分かればそれでいいと思った。 長い針はIIIを示し、短い針IVはを少し過ぎた所を示している。 ……四時十五分か。 日の出まであと二時間を切った。 ラスタバドの奴らはどういう理由か、日の光を苦手としている。 今まで地下に暮らしていた反動か、もしくはグラン・カインに忠実なだけなのか……後者のほうがもっともな理由だと思うのだが、今考えるべき問題ではない。 ……日の出と共に引き下がるとは思えないな。 ディルは懐中時計をポケットに納め、剣を握り締め大きく息を吸い、 「今宵の戦いも終焉を迎えようとしている! 地上に立つのは我々か! もしくはラスタバドの奴らか! 決着をつけようではないか!!」 どこまでも響く大声で、皆の雄叫びにも負けぬ大声でディルは叫ぶ。 「さぁ皆の者! 兜の緒を締め直せ! 剣を握り締めろ! 志(こころ)の旗を掲げろ! 勝機の息吹を放ち、生き残れ!!」 少しずつ黒から青に変わりつつある空に、ディルの言葉が木霊した。 ディルの激と同時に、ラスタバド兵も持てる力を出し尽くしてきた。 剣を構え、槍を構え、弦を絞り、マナを集める。 攻める事を恐れず、逃げることをせずに進む道だけを選ぶ。 何を求めて進むのか、何を守るために進むのか、何を示しに進むのか。 理由なんて無いかもしれない。 理由なんてただの足枷なのかもしれない。 それを求める者が居るかもしれない。 それを求めぬ者が居るかもしれない。 それを求めたところで何になるのか。 それを手に入れたところで何になるのか。 答えてくれるものは居ない。 答えてくれた所でそれが正しい答えだとは限らない。 正しい答えとは何なのか。 間違った答えとは何なのか。 答えは力なのか。 力とは何か。 生きることが力なのか、勝つことが力なのか、守ることが力なのか。 すべては混沌の中に沈んでいる。 そのなかに手を入れ、手探りで探す者が居る。 中には、すでに手の中にあるのに探し求める者が居る。 それは欲望なのか、はたまた傲慢なのか。 それを決めるのは人の心なのだろうか。 人の心とは何なのだろうか。 他に生きる者ではダメなのであろうか。 すべては光と闇の中に……。 すべては天と地の中に……。 すべては生と死の中に……。 すべては……。 歴史と記憶の中に……。 カナリアは森の中の小さな広場で膝を抱えるように座っている。 森の真ん中に直径十メートルぐらいの池とその中心に建つ高さ二メートルぐらいの天使の像がある。 それはロウフル寺院と呼ばれるものである。 聖の神アイン・ハザードのために作られたものである。 地上にも流れが存在する。 それは聖の流れと邪の流れである。 今カナリアが居る場所は聖の流れが交わる場所。 このような場所は他にもエルフの森の北部、象牙の塔にも存在する。 逆に邪の流れにも交わる場所がある。 一つ目はグルーディン村から北部にある荒地と呼ばれる場所。もう一つはオーク村から西にある場所だ。 そして、聖と邪が交わる場所。 そこにはかつて地上を全て支配した王が天の力をも我が物に手に入れようと建てられた傲慢の塔。 二つの流れが交じり合うため、塔の中には強大な力を持ったモンスターたちが蠢く世界となっている。そんなモンスターが世界に出ては大変な事になるため、象牙の塔の魔法使いたちを何人か派遣し、外に被害が出ないようにしている。 カナリアにはそんな知識など無いが、今天使の像の前で、膝を抱えるように座っていた。 抱えた膝の上に顎を乗せ、じっと天使の像を眺めていた。 眺めている彼女はローブをなびかせ、背には白い大きな翼、表情は優しい微笑をしている。 カナリアはダークエルフにもかかわらず、ロウフル寺院を目の前にしても何も違和感を感じなかった。むしろ心安らいでいる。 しかし、カナリアにはそんなことはどうでも良かった。 思う事はただ一つ、 「なんであんなこと言っちゃったんだろう……」 独り言のように呟く。 (私はフィールのペットでもなければ召し使いでもないもん!) 心の中でさっきの言葉を復唱する。 はずみで言ってしまったことは十分に分かっている。 そんなところが嫌いだった。 軽はずみで物事を行なってしまう。 それがどんな危険な事だろうと、どんだけフィールに迷惑をかけてしまうことでも……。 「なんであんなこと言っちゃったんだろう?」 天使の像に向かって問いかけてみるが、天使の像は優しい微笑みのまま微動だにしない。 ダークエルフだから何も語ってくれないのか。もしくは誰にも何も語らないのか。 内心では、別にペットでも召し使いでも良いではないかと思っていた。 ペットでも召し使いでも、フィールは傍に置いてくれている。少し離れたとしてもすぐに傍に居てくれる。 それだけで十分ではないのだろうか。 それだけで十分だった。 十分だったにもかかわらず、自分はそれを否定した。 カナリアは膝を抱え直し、顔を伏せた。 そのころフィールは森の中を歩いていた。 体に少々疲れが残るが、動けぬほどではない。 大地に踏みしめ、一歩一歩進んでいく。 「おい!」 両手にブラインドデュアルブレードを握り締め、森の中を歩いていく。 「おい! 待てよフィール!」 フィールの行く手を阻むようにシグザが立ち阻んだ。 「やっと止まったか」 前を塞がれ、仕方なくフィールは立ち止まった。 「何か用か? シグザ」 「お前は地位の上の人に対しての礼儀がなっていないが、まぁ今はいいだろう。お前カナリアを追わなくてもいいのかよ?」 今フィールが向かっているのはカナリアの居所ではない。戦場だ。 「お前には関係無いだろ」 シグザの脇を通り、戦場へと向かうが、すぐさまシグザはフィールの前に立ち行く手を阻んだ。 「おいおい、関係無くは無いだろ」 逃がしはしまいと、フィールの肩に手を置きながら問いたざすが、 「話しは済んだ。まだ何か用があるのか?」 距離を置くように冷たい視線をシグザに向ける。 「何も済んでないだろ! 戦場へは俺が行く。お前はカナリアを追えよ!」 周りには何人か居るが、シグザは構うことなく叫んだ。 「あいつは勝手にここへ来た。どこへ行こうとあいつの勝手だ」 シグザの手を払いのけ、今度は大きく跳躍。疲れなど一切感じさせない動きで木の枝を渡っていく。 「おい、フィール!」 シグザの声だけが虚しく風のなかへ消えていった。 カナリアは顔を伏せたまま足音聞いた。 驚く事も無く、カナリアは顔を伏せたままにした。 近づいている人は知っている人だから。 「ここに居たんだね」 声が聞こえた。 声の持ち主はサクラだ。 「ったく……ケガ人をあんまし歩き回せるんじゃないよ」 様子を伺うように声をかけてみるが、それでもカナリアは顔を上げる事すらしなかった。 その様子にサクラはため息混じりに息を漏らした。 そのままカナリアの隣りまで歩き、よいしょっと声と共に隣に座った。 しばらく沈黙が二人の間に流れた。 カナリアは膝に顔を埋めたまま、サクラは両膝を立て、両手を背後に立て体を支え空を見上げるっといった感じで口を閉ざしていた。が、 「あんたたちを見ていると、始めてシグザと会った時の事を思い出すよ」 サクラがゆっくりと口を開いた。 まるで古いタンスを開けるかのように。 「ワタシの実家はねアデンの結構名の知れた家なんだ。そのまま行けば親が決めたどっかのお偉いさんの家に嫁いで何不自由無いしていたと思うな」 一息。 「でも、ワタシはそれが気に食わなかった」 一度言葉を止め、確かめるように再度口を開く。 「世界のどこかで助けを求めている人が居るのに、ただの嫁なんてことはしたくなかった。だから逃げ出したんだ。自分のやりたいことを探しに」 吹っ切れたように告げたが、次の言葉には後悔が混じっていた。 「でも、実際ワタシはただ単に逃げたかっただけかもしれない」 その言葉でカナリアは伏せていた顔を上げた。 その次の言葉が気になったため。 サクラはカナリアが顔を上げた事に気づかずに言葉を続けた。 「決まりきった運命に立ち向かおうともせずに。逃げ出さなくても結婚さえしなければアデンの兵士として人助けが出来たんだし、わざわざ一人にならなくても良いんじゃないかって……後悔もしてたんだ」 カナリアは静かに話を聞いていた。 「それでウジウジしてたらあいつがワタシの前に現れた」 少々頬を火照らせながらもサクラは話した。 「最初会った時ただのバカだなって思ってた」 視線を下ろし、立てた膝を伸ばし代わりに立てた両足のつま先を見ながら告げる。 「でも違ったんだ。ただのバカでも真っ直ぐなほどの大バカ。どんなことにも自分の意思を真っ直ぐにぶつけて……やりたいことは真っ直ぐ突っ込んでった……。その時思ったんだ。こいつはワタシと正反対だなって」 また視線を空へと戻し、 「親の言う事を聞いてただ単に生きてきたワタシと、自分の思った事に素直に生きてきたあいつ。……同じ事をしているはずなのに、まったく違う感じがした」 一息入れ、 「そう考えたらいつの間にかワタシはシグザの隣りに居たんだ」 カナリアはサクラの横顔を盗み見る。 髪をポニーテイルで一つにまとめた彼女の横顔は綺麗だと思った。 どうやったらそんなに綺麗になれるのか、カナリアは不思議に思ったほどに。 そんなとき、昔の噂話を耳にした。 (女性はね、恋をすると綺麗になるって) 誰が言ったのだろうか? そんな事さえ思い出せない一言なのにはっきりと思い出せる。 カナリアはその後一ヶ月ぐらい毎日鏡とにらめっこしたことも覚えている。 そんな自分を心の奥底で笑い、 「サクラさんはシグザさんのこと大好きなんだね」 「え?」 いつの間にか顔を上げていたカナリアに気づき、そこでようやく自分が何を話しているのかとサクラは思った。 すると面白いようにサクラの顔は耳まで真っ赤に火照りだした。 「い、いきなり何をい……言い出すのよこの子は」 恥ずかしさの余りろれつが回らなくなり、逃げるように立ち上がる。 「と、とにかく、ワタシが言いたいのは……えっと、その……」 心を落ち着かせるように深呼吸を二、三度繰り返し、 「た……たまには、逃げる事もして良いんじゃない? でも、ここぞって時には逃げちゃ駄目よ。癖になっちゃうから」 ゆっくりと優しい口調で言った。 「でも、逃げたら逃げたで逃げっぱなしは駄目よ。逃げたらまた向き合わなくちゃ行けないからね」 自分でも何を言いたいのか、さっぱり分からなかった。 「向き合った時、踏み出す一歩が大変だけど動き出せばなんとかなるものよ。……後はあなたの心次第。いいね」 最後はカッコ良くまとめ過ぎたかな? っと思いつつサクラはその場を後にした。 全体的に考えて見ると何を言いたいのか、何を伝えたいのか、さっぱり分からなかった。 それでも一瞬見たカナリアの表情には、もう迷いは無かった。 自分でも慣れないことは大変だな。っと思いながらサクラは森の中へ進んでいった。 ケントとハイネの間。そこにはシルバーナイトタウンとギランを結ぶ街道、ちいさなダンジョン、ギランケイブ。アイン・ハザードを奉るロウフル寺院がある。 戦場は今街道を挟んで戦闘が行なわれている。 否。これは戦争と言った方が正しいだろう。 ある者は木々を盾として敵を誘い込み、またある者は深く腰を落して矢の雨を避ける。 そんな中をフィールは敵の群れに向かって走っていく。 フィールの足取りには迷いは無い。 あるのは近づこうとする決意のみ。 その無謀とも言える行為に誰かが叫んだ。 「おいバカ! 一人で突っ込むな!」 その叫びもフィールは無視。止まればいい的になるだけ。 だからと言って今戻っても的になるだけ。 だから走った。 身を屈め、的を小さくするために。 当然集団の中から一人だけ飛び出せば自動的にそれが的になる。 矢の雨がフィールに集中する。 何十という矢がフィールに降り注ぐ。 その中をフィールは走った。 屈めた身をさらに屈め、当たる必要最低限の矢だけをブラインドデュアルブレードで払い落とす。 さらに敵の注意がフィールへと向けられた。 今度は百以上の矢がフィールに向かう。 が、それはフィールに届く前に半分以上が砕かれた。 「フィールを援護だ!」 ある者はフィールに向けたアーチャーに向けて矢を放ち、そしてまたある者はフィールに向けて放たれた矢に向かい矢を放った。 戦場はフィール一人の手で変わったと言えるだろう。 「今だ! 突撃ッ!!」 敵の弓は全部とはいかないが、フィールに集中した。 そうすれば必然的に手薄になる所も有るだろう。 それが狙い目だった。 攻める事が出きれば、負ける事は無い。 しかし、今の状況では連盟軍に勝ち目は十分にあった。 物資、人、体力、どれを取っても勝ち目はあるはずなのにフィールは決着を急いだ。 一刻も早く戦争を終わらす為に。 フィールは脚力に力を込める。 一刻も早く戦争を終わらす為に。 フィールは剣を振るった。 どれくらいの時間がたったのだろう。 サクラが去った後カナリアはずっと寺院の前で座っていた。 もう顔を伏せる事は無い。 けれども立ちあがる事はしなかった。 ただじっと天使の像を見ている。 空は先ほどよりもより青に近づいている。 あと半時もすれば太陽が顔を出すだろう。 そうすればまた気持ちの良い日の光を浴びることができる。 しかし、それよりも先にやらなければならない事があった。 ……フィールに謝らないと。 やるべき事は知っている。でも、実行に移す勇気が足りない。 すがるような思いで、天使の像を見た。 真っ白なローブに真っ白な翼。彼女は変わらぬ笑顔で微笑んでいる。 彼女は何も語ってはくれない。 彼女は何も教えてはくれない。 そんな彼女をカナリアは意地悪だな、と思った。 「踏み出す一歩が大変だけど動き出せばなんとかなるもの、か……」 先ほどサクラに言われた事を復唱してみた。 分かっている事だった。分かり過ぎて笑ってしまうほど簡単なものだった。 それでもカナリアは踏み出す事を恐れた。 もし一歩でも足を踏み出ても、もし余計に離れてしまう結果になってしまったら……。 それが怖かった。 勇気の一歩で恐怖の一歩にも不安の一歩にもなってしまう。 でも、動き出さなければ変わりはしないのだろう。 「がんばれ私!」 右手で拳を作り、不安、恐怖を取り払うように勢い良く立ち上がった。 空はより青に近づいている。 鳥たちの声も聞こえ、朝を迎えようとしている。 間だ少し暗いが、この空は次第に明るい青に変わり、不安など一切取り払ってくれるだろう。 しっかりと両足で大地に立ち、振り向こうとした時。 「ここに居たのか、カナリア」 男性の声が聞こえた。 とっさに振りかえって見ると、そこには疲れたような表情をしたフィールの姿が合った。 何で? っと思ったが、今気づくと戦闘の音や声は一切聞こえない。 聞こえるのは歓喜に震える人の声だ。 それでようやくみんながラスタバドの大軍勢に勝利したと確信した。 目の前に居るフィールも勝者の一人である。 長かった夜は終わりを告げ、一時の平和が訪れたのだろう。 しかし、カナリアにはその平和を感じるのには少しばかり速過ぎる。 ……まずは目の前の問題を終わらせないと……。 先ほど不安、恐怖を取り払ったつもりだが、再度その波が押し寄せてきた。 頭の中が真っ白になり、どうすればいいのか分からなくなる。 謝りたくて、脳を働かせようとするが、声が出ない、息が出ない、喉を振るわせる事さえ出来なかった。 何も出来ずにただじっとしていると、フィールは足を動かしこちらに近づいてきた。 怖かった。逃げ出したかった。 何が怖くて、何から逃げ出したいのかわからない。 手を伸ばせば届く距離にまで迫ったフィールの顔は酷く疲れたといった感じだった。 その目はじっとカナリアを見つめたまま動かさない。 不意にフィールの右手が上げられた。 その行動に、カナリアは思わず瞳を固く閉ざした。 打たれると思ったからだ。フィールの言う事を聞かずに、いくら後方で戦闘に参加していなかったと言っても、何時どこからラスタバドが現れるか分かったものではない。 だから打たれてもおかしくない。そう思ったから瞳を閉じたのだ。 しかし、いくら待っても痛みなどは来なかった。 代わりに来たのは、頭の上に軽い重みを感じる程度だった。 何かと思って恐る恐る目を開けて見ると、フィールの右腕は自分の視界より上にあり、手は頭の上に載せてあった。 フィールの表情は疲れから笑みに変わっており、 「迎えに来たぞ。カナリア」 そんな一言だった。 その言葉にカナリアは唖然とした。 怒られると思った。打たれると思った。それなのにフィールは笑っている。 唖然として動けずにいるカナリアに対して、フィールは右手をカナリアの上から退かし、差し出すように姿勢を変え、 「ほら、帰るぞ」 言って見るが、何も反応を見せないカナリア。 たく、っと息を漏らしながら、フィールはカナリアの右手を掴み歩き出した。 引っ張られると同時にカナリアの動きが再会された。 「え? ちょ……ちょっと」 再会したのは良いが、フィールは動きを止めてくれる気配は一切無かった。 だから無理やり止めた。 「ちょっと待ってよフィール」 足を止め、腕を払うようにすると、案外簡単に外れた。 「どうして怒らないの?」 「……何をだよ?」 「さっきあんなに酷い事言っちゃったのに、フィールの言う事聞いてないのに、何で怒らないのよ」 「なんだよカナリア。……怒ってもらいたいのかよ」 先に謝るという選択肢もあっただろうが、なんとなくその方法は頭に浮かばなかった。 「少し会わない間に変わったなぁ。怒ってもらうことが良いのか……その性格何とかした方が良いぞ。人として」 「え?」 そう言われて、考えた。 いくら長い間ラスタバドに拷問を受けたからと言ってそっちのほうに目覚めた覚えなど無い。 そんな事を考えたら、また頭の中がパニックになり、 「あ、いや……べつに、そういう意味で言ったんじゃなくて……」 「ならどう言う意味だよ。言っとくが、俺はお前を叱る理由なんてないんだからな」 「え?」 何で怒る理由が無いのだろうか。自分は叱られてもおかしくないことをしたはずなのに。 「ど、どういう……意味?」 もしかして戦い過ぎて忘れてしまったのだろうか、などと考えるが、フィールは今まで約束というのを忘れた事は無い。 たまに急な用事で約束を破ってしまう時があるが、その時は必ず連絡をくれる。 そのため忘れてしまったっと言う事はありえないだろう。 「どうもこうも無いだろ。俺はお前に迎えに行くから待ってろとは言ったけど、誰もギランで、とは限定してないはずだぜ」 フィールの言葉にしばし沈黙。そして、 「―――はぁ?」 へんてこな声を挙げてしまったと思う。 「お前がどこへ行こうが、何を使用がおまえの自由だ。俺が迎えに行くのをここで待ってた。それだけじゃんか」 なんとも馬鹿げた話だと思った。 確かにフィールはギランの街へ行けと言った。 だからカナリアは一度ギランの街へ行き、その後で見掛けたギランの兵士たちに混じって戦場へ向かったのだ。 結果、カナリアはフィールの言い付けを破っていない事になる。 その事で、む~~、唸り声を上げ、 「それじゃー私がいままでウジウジ考えてたのがバカみたいじゃないのよ」 頭を抱えて目に涙を浮かべている。 今にも泣きそうなカナリアを見るに見かねて、 「あ~解った解った。んじゃーとりあえず正座だ」 「え?」 「ほら、早く座れって」 言われるがままに、草のジュウタンの上に正座に座り、見上げるがそこにはフィールの顔は無かった。 え? っと思ったらフィールは背を向けて座っていた。そのまま倒れるように体を倒し、ちょうど頭が膝の上に乗った。 「罰として俺が起きるまでそうしてろ」 「え? ちょ、ちょっとフィール」 声を掛けるが、当の本人は目を閉じ、寝息を立てていた。 「……寝ちゃった」 どうすれば良いのかわからず、辺りを見渡してみると、そこにはシグザの姿とサクラの姿、ほかもろもろが木陰から覗いていた。 「やべ! 見つかった! みんな逃げろ~~!」 まるで悪戯が見つかった子供のようにわらわらと逃げ出し始めた。 「早く逃げないとフィールにぶっ殺されるぞ~ワッハッハッハ」 いっそのこと本当にぶっ殺してくれないかなっと内心思いつつ、 「早く帰って宴会だ!」 「飲み会だ!」 「合コンだ!!」 っと叫ぶものまで居る。 カナリアは追いかけようにも膝の上にはフィールが居る為動く事が出来ない。 「あぁ~恥ずかしい」 頬を火照らせながら、フィールの寝顔を眺める。 まるで死人のように、でも安らかに眠っている。 そんな時、あることが心の奥底によぎった。 ……もしかしてフィール……寝てないんじゃないのかな? 久しぶりに再会あの夜。フィールは私を助けてくれた。その後、一度寝ていたと仮定しても、その次の夜。マグナディウスの襲撃。その後フィールは見まわりがあるから一晩中起きていた。そして休む暇も無く、仕事をやって、午後には私の買い物に付き合ってくれて……そして昨晩の戦争。 いくら戦闘の強者と言われるダークエルフでも睡眠を得なければ体が持たない。 しかも、余計に精神を使う見回りや、戦争など連日でこなせる人間など居るはずが無い。 「体も内側もボロボロだったんだね」 フィールに声を掛けるが、深い眠りに入ったのか、何の反応も見せない。 表情は安堵。 心の奥底から安心しきったような表情。 カナリアと再会した時、彼は涙した。 もしかしたら今まで寝る間も惜しんで訓練などを繰り返していたのではないか。 そう思うと心が痛んだ。 「ごめんね。フィール……」 だから謝った。意外と素直に出るものだなっと考えながら。 でも、今、目の前に居るフィールは全てを無視するように安堵の表情を浮かべている。 ほんのささやかな休息。 この後にも戦いの日々が始めると分かっていても、今は心安らぐこの時を大切にしたい。 この青空のように……。 カナリアはただ一人の傍観者へ顔を向けた。 いつの間にか顔を出していた朝日の光で、彼女の翼は輝いている。 ロウフル寺院の天使の像は相変わらず優しく微笑んでいるのが見える。 それを見たカナリアは、ほんと意地悪ですね、っと心の中で呟いた。 第七章 宴の時 〓〓〓〓〓〓あとがき〓〓〓〓〓〓 第六節書き終わりました~。 今回はかなり短めです。 ぶっちゃけ五章の後半でもいいかな? っと思ったのですが何と無く六章にしちゃいましたw もうノリですw (誰かこのノリだけで全てを終わらそうとしている愚か者に正義の鉄槌を!) どっかの変なのが何か言っているように聞こえますがまー軽く無視しておきましょうか。 ほんと、最近後先考えずに書きまくりですよ。第四節 戦乱 前編で、マグナディウスと一緒に出てきた漆黒のマントに身を包んだ男。本来こいつがボスという感じで書いていたのに、いつの間にか居なく なっちまったw しかもエルとかどうしたんだ~っと聞きたい人がいるかと思いますが、まぁのちのち書いていこうかな~っと思っています。 次回 リネージュ外伝 第七節 (タイトル未定) 後御期待!! ……されては困る ε(゜Д゜G≡(`Д´)ノ |